コラム

インプラント治療に抗生剤は必要ですか?

抜歯やインプラントの術後に抗生剤(正確には抗菌薬)をお渡しする頻度は多くありますが,本当に必要なのでしょうか?
現在,薬剤耐性(AMR)が国際的に大きな問題となっています.
HPによると,抗菌薬が効かない薬剤耐性菌による死者は2013年で70万人と報告され,2050年には1000万人となり,がんによる死亡者数を超えると予想されています.
新規の抗菌薬の開発は止まっています.私たちは既存の医療資源を大事に使う必要があります.
では,歯科治療に抗菌薬は必要でしょうか?

抜歯などでは,ハイリスクな処置の場合のみ術中の感染を予防するための「術前投与」が推奨されています.
ダラダラと術後3日間飲み続けるのでは無く,手術1時間前に1回のみ服用する方法です.
心臓の病気など基礎疾患のある患者さんは,量を多くするか術後48時間までの延長は認められますが
それを超える連続投与は行うべきではないとされています.
術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドラインより


パンパンに腫れている場合はどうでしょうか?
治療目的の抗菌薬は予防投与とは異なりますが,
ここで言う治療とは,38.5°を超える熱発,白血球 CRPの著しい上昇,SPO2低下,があり,細菌培養して入院下で抗菌薬を静注して消炎することを想定しています.
また,近年問題になっている顎骨壊死(骨が腐ってむきだしになる)もこれに当てはまるでしょう.
一般開業医を受診できる患者さんであれば,膿瘍を切開して細菌量を減らし,嫌気的な環境を改善し,早期に原因を外科的に排除することが望ましいと考えられます..

間違った薬の服用は常在菌のみを減らし耐性菌だけ生き残り,難治性の細菌感染に移行してしまします.
患者さん個人にも社会全体にも悪い影響を及ぼす危険性があり,お勧めしておりません.
簡単に言うと,
  「薬じゃ治らないし,かえって悪くなっちゃいます」