コラム

治療か? 経過観察か?

治療介入すべきか様子を見るべきかは,実は明確な基準で判断しています.
1,ばい菌が体の中に入り込んで悪さをしているか? それは進行しているのか?
2,それによって患者さんに困ったことが起こっているのか?
3,治療することで,患者さんのメリットがデメリットを上回るのか?

単純なむし歯の治療で考えて見ましょう.
むし歯の治療は,エナメル質(皮の部分)を超えて象牙質(肉の部分)まで広がった場合は治療の対象になります.
身体の中にばい菌が入り込んで,治療しないと治らないからです.
エナメル質に限局している場合は,切削充填は逆効果で,むしろ感染を広げないようにする生活の改善が効果があるでしょう.
写真は,学生講義用スライドの1枚です.
選択的に感染した歯質を削除する手技は歯科医師として最も基本的な物です.






痛みを自覚する場合も治療が必要になることが多いです.
ほとんどの場合,痛みを感じている方は神経近くまでむし歯が進行しています.
逆に痛みを感じていないうちはまだ経過を見ても良いかもしれませんが,
タイミングを逸すると神経を取る必要があります.適切な間隔でのモニタリングが大切です.


最も大事なのは治療することによって患者さんが利益を得られるかどうかです.
治療することによってかえって痛くなる.噛めなくなる,歯の寿命が短くなってしまう.
ことは避けなければなりません.


症例は,「むし歯を治して欲しい」と受診された患者さんです.冷水痛や咬合痛はなく見た目が気になるとのことでした.
(なお,きれいにしたいというご希望への治療は美容形成と同じく保険外診療になってしまいます.あくまでむし歯という病気に対する治療のみ保険適応可能です.)
古い充填物のマージンが着色してますがエナメルの範囲内にとどまり,象牙質に感染が広がっている所見はありません.
古い充填の厚みは無く,かみ合わせがきつく,摩耗が著しいです.詰め物の強度確保のため厚みをとるには健全な象牙質を大きく削り込む必要があります
かえって痛くなりそうですね.
当院の診断は
「治療が必要な状態ではありません.再治療してもおそらく冷水痛に悩まされたあげく,1年後には脱離や破折を起こすと思われます.治療のメリットが無く,経過観察がよろしいかと思います」
というお答えになります.
そもそも,以前の治療が必要だったのかが疑問ですね・・

治療介入すべきかどうかは
医療者の大きなテーマです.
9月に札幌で行われる口腔インプラント学会で,
がん患者の抜歯基準にかかる症例発表を行います.
問題提起になれば良いのですが.